緑化・東京暑熱対策プロジェクト
~可搬式緑化による猛暑時の快適空間形成技術
に関する実証的研究~のご紹介

 

都市部の夏季の気温は年々上昇する傾向にあります。そのため緊急の猛暑対策が必要になっています。特に、2020年に行われるオリンピックやパラリンピックの開催時期も猛暑日が予想される期間になることから、効果的な対策が望まれます。しかしながら、都市全体をクールダウンすることは難しく、人が集う部分に局所的に涼しい空間を提供する技術が重要と考えられます。

 

また、エアコン等を屋外にも導入してクールスポットを作る方法では、その排熱がその周辺をさらに温めてしまうために、緊急避難場所の確保を除いて、推奨ができません。そのため排熱の出ないような方式での涼しい空間の形成技術の確立が必要と考えています。

本研究プロジャクトは、東京都農林総合研究センターと群馬大学が、「可搬式緑化による猛暑時の快適空間形成技術に関する実証的研究」として進める共同研究です。可搬式緑化技術は、移動できる大きなポッドの中に樹木を植え付け、樹木による良質な木陰とミストを組み合わせることで、涼しい空間をつくります。ポッドには多摩産材のベンチが付いており涼しい空間で休むことができる構造になっています。また、ポッドには大きなキャスターが付いており、移動したときには簡単にベンチを折りたたんで、移動させることが可能です。設置中は動かないような仕組みになっており、十分な耐風性能があります。これを複数台設置することで、涼しい空間を街中に簡単につくり出せることになります。私たちはこのような技術のコンセプトを「動かせる森」としています。このような「動かせる森」をイメージした実証試験は、2014年から東京ビッグサイトをお借りして実施し、現在はお台場のシンボルプロムナード公園をお借りして実証試験を進めているところです。

 

この技術を開発するにあたり、私たちは下記の四つの視点が重要と考えています。

 

利用者目線で効果的な暑熱対策になっていること

 

実際に利用者していただく皆様にとって暑熱対策として効果的な環境が提供できているのかを、詳しく検証していることが重要です。本研究では、木陰とミストのあるところと何もないところで、体感温度やWBGTと呼ばれる暑さ指数、湿度、日照量などがどのように違うのかを比較・分析し、5年にわって毎年の夏に測定を行ってきました。その詳細なデータに基づき改良を加えています。また、測定は各位置の1点だけでなく、人が滞在する空間全体の面的な分布も求めています。特に、車いすを使っている方やベビーカーに乗った子供たちの熱環境評価には、空間の高さ方向の分布計測が不可欠です。さらに、空間の熱環境測定だけでなく、ベンチ温度なども測定することで、ベンチの材料や塗装材の色選定も行っています。加えて、アンケートに基づく温熱感調査も行い、利用者にとってどのような熱環境が提供できるのかを正確に把握しています。

 

環境への十分な配慮が行われていること

 

環境への配慮が十分に行われたものになっているかも極めて重要と考えます。例えばできるだけ小さなエネルギーで涼しい空間を形成することが一つです。この研究で用いる樹木は良質な木陰を提供します。樹木の葉は太陽の光を求めて、互いが重ならないように育ちます。その結果、私たちにとっては良質の木陰が生まれます。このような自然の力をうまく利用させていただくのも私たちが樹木の利用にこだわる理由の一つです。また、クーラーなどとは異なり、排熱の少ないミストシステムを使用します。もちろんミストの形成にはポンプの動力が必要です。できるだけ省電力で済むように、最適な高さにノズルを設置することで、滞在する人に効果的に涼しさを感じてもらえる工夫をしています。また、ベンチには地域の木材を用い、しかも耐候性を高めるために必要な塗料を用いています。これにはVOCフリーの塗料を選定しています。さらに、本年度の実験では太陽光発電だけでミスト噴射ができ、スマートフォンなどの充電サービスもできる「エネルギー自立型緑化ミストベンチ」も開発し設置しました。

 

ユニバーサルデザインになっていること

 
健常者のみならず車椅子を利用している方などにも十分に配慮された、ユニバーサルデザインがされていることも極めて重要です。例えば車いすを使っている方が涼しい空間に近づけるような配慮がされているか、その空間内での移動に邪魔になるようなものがないかなどへの注意が必要です。ベビーカーを使っているお母さんと子供さんが一緒に使えるかなども考える必要があります。

私たちは、このようなユニバーサルデザインの考え方を重要視し、実際に車いすを使っている方々に協力を得ながら開発を進めてきました。例えばミストの位置一つをとっても障害を持たれている方に最適な位置があります。また、それらをわかり易く表示する研究も同時に進めています。

 

地域の資源循環に貢献する仕組みになっていること

 
わたしたちの開発してきた可搬式緑化技術で重要視している最後の点は、地域全体の資源循環に貢献できる仕組みとして成り立つものとしたいと考えています。例えば、ベンチやポッドの部材として使っているものは外来材ではなく、地域の木材(多摩産材)です。また、植え付けをしている樹木は近隣の造園業者さんが里山や森で育てたものをできるだけ使用しています。現在お台場に設置されているものには東京の島しょ部で育てられた木(ヤシ)もあります。このように、近隣地域の資源が都市部に導入されて、都市部の資金が里山や島しょ部に戻るような資源循環と経済循環が生まれる仕組みが重要と考えています。我が国の伝統的な産業である林業や造園業にとっても新しいビジネスになるような技術を目指しています。簡単な工業製品だけを組み合わせる方式ではなく、このような好循環にこだわる理由は、都市部と周辺地域が結びついた仕組みが地域の発展に重要だと考えるからです。

私たちは、これらのいずれが欠けても、地域や利用者にとって良い技術とは言えないと考えています。

 

夏季の暑熱対策の必要性は、オリンピックやパラリンピックが終わっても必要です。オリンピック・パラリンピックは一つの開発のきっかけであり、むしろオリンピック・パラリンピックレガシーとして残して行けるような技術として成熟させてゆくことが重要です。一過性の開発や十分な評価を行わない開発では良いものはできません。これからも、皆様のご協力を頂きながら暑熱対策に寄与できるように改良を進め、地域に貢献してゆきたいと考えております。ぜひとも私どものプロジェクトにご協力やご意見を頂ければ幸いです。

 

平成30年8月1日

東京都農林総合研究センター緑化森林科

群馬大学大学院理工学府・天谷研究室